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2019.02.02
当社には一般エンドユーザをはじめ、システム開発会社様やネットワーク関係の会社様、商社等無線LANに関連するさまざまな通信不良等のトラブルのご相談や調査のご依頼を頂いています。
このコーナーでは実際にあった無線LAN障害の事例を御紹介します!!こちらをご覧になられた方々が同じような不具合に悩まされていましたらトラブル解決への糸口になればと思います。
自動チャンネル設定の挙動で不具合??
東京都内のとあるお客様より無線LANの障害の調査をして欲しいとご依頼を頂きました。
まずはお電話とメールを並行して症状をお聞きしてみると、お客様からは次の通りの申告を頂きました。
・とにかくよく切れる。突然切れる。
・タスクバーの電波はいっぱいなのに切れる
・場所によっては自席の真上にアクセスポイントがあるのに、タスクバーの無線LANのメモリは1個だけで弱い。
お客様の環境はビルの複数階で業務を行っておられます。オフィス街というロケーションでもありました。
無線LANの機器をお聞きしてみると、大変有名なメーカーのエンタープライズ製品を使用されていました。
また、アクセスポイントは全て無線LANコントローラ(WLC)で一括制御されています。
タスクバーの電波は一杯なのに切れるという申告から、まずは電波干渉が疑われます。
また自席の真上にアクセスポイントがあるのに無線の受信強度が弱いという申告から、どこか他の所から移動してきて、移動してくる前のAPとの接続を引きづっているのかな(ローミングしない)という事も考えられます。この場合PCのローミングの積極性の設定を調整してみるという方法もあります。
お客様に自席に戻る前にどこからか移動してきましたか?
例えば会議室に行かれてそのまま戻ってこられたという事はありませんか?
とお聞きしました。
すると、朝この場所でPCの電源を入れてそれから全くどこにも動いていません。という証言を得ました。
こうしてお客様の窓口ご担当者様や実際に執務室で業務を行っている従業員のみなさまからいくつかの証言を得て調査に入りました。
この調査では、一般的な「パッシブサーベイ」と「アクティブサーベイ」を並行して調査を実施しました。
アクティブサーベイはアクセスポイントと測定器が通信をしながら測定を行いますので、接続の許可をお客様に承認を得て調査を行います。
調査を行ってみると、さまざまなアクセスポイントの挙動や現象を捉える事が出来ました。
まず、アクセスポイントはWLCで制御されているのですが、なぜか、特定のチャンネルに設定が偏っています。
そしてそのCH設定が偏っている所が一定のエリアに集中している事も分かりました。
またサーベイの作業実施中にもいくつかのAPが頻繁にチャンネルが切り替わっている事が分かりました。
これはDFSではなく、W52でも同様の現象が出ていたので自動チャンネルの設定による挙動だと推測されます。
そこでCH設定が偏って集中しているエリアで、スペクトラム調査を実施しました。
スペクトラム調査を実施すると、Wi-Fiの電波の密度やWi-Fi以外の電波密度等の状況も確認する事が出来ます。
スペクトラム調査の結果を見た所、DutyCycleと呼ばれる電波の密度を示す値が80%を常に超えていました。
タイミングによっては100%近くにまで達しています。これは非常に強い干渉が発生しているという結果です。
アクセスポイントの性能にもよりますが、このDutyCycleが40%程度を超えて来ると通信が低速化したり何かしら影響があります。80%ともなるとなかなか過酷な電波環境です。
ではなぜこの値がこんなにも高くなってしまったのか。
外来波の影響も少なからずありましたが、このサイトで一番大きな原因となったのはやはり自局間干渉でした。
自動CH設定でなぜか1つのCHにAPのCH設定が偏ってしまい、そのAPと通信する接続端末間との通信が飽和状態になったと考えられますが、WLCの制御がどうしてそのような挙動を行ったか迄は不明です。
そしてもう一つ疑問が残ります。自席の真上にアクセスポイントがあるのになぜ無線LANの受信を示すアイコンの強度表示が最弱の1個なのか。
この原因はデータ分析を進めて行く上で、その原因が分かってきました。
あるフロアでは1つの階層にAPが7台程度置局されています。
アクティブサーベイのデータを分析をしてみると、常に中央のAPのみに接続デバイスが接続されていました。
建物の端から端まで歩いてみてもローミングは一切されず常に中央の1台のみに接続されています。
そして自席の上にAPがあるのにとおっしゃっていた場所からその接続しているAP迄は30m以上の距離が有りました。
自席の真上のAPと実際に接続されているAPの間には途中2つのAPもあります。
間のAPを2個飛ばしてわざわざ遠くのAPと接続してしまっている状況は、これは偶々偶然なのか・・・。
確かに無線LANに接続するデバイスは電波強度が最も強い最寄りのAPに必ず接続されるという事はありません。
しかし、あまりに弱い電波を何故掴んでしまったのか。
それを判断する為に次に無線空間を測定してみる事にしました。
中央のAPの接続状態を調べてみるとそのフロアの概ね80%のデバイスがこのAPに接続されている事が分かりました。
ある意味このAPはよくこれだけの大量のデバイスを同時接続させる事が出来たな。さすが某社製のアクセスポイント。と感心している場合ではありません。
次に繋がり難いと申告のあった自席真上のAPに強制的に接続を試みる事にしました。
つながりません。何度かトライするとようやく繋がったりもしましたが、やはり不安定のようです。
実はこのエリア、何台もの多くの自局APが同じチャンネルでカバーされているエリアでした。
自席上APの使用CHは上下階置局のAPも含め他の多くのAPとCHが重複している状況です。
無線に接続しているデバイスは他階層のAPに接続してもおかしくない程強い電波が届いているレベルです。
同じWLC環境下でCH設定が頻繁に変更になるAPもあれば、わざわざ重複するCH設定になったままその環境に合わせてCH設定が変更されないものもあります。
こうしてさまざまな問題が明らかになってきましたので、改善案をいくつかご提案しました。
改善案は主に以下の通りです。
・自動チャンネル設定を固定CH設定に変更する
・アクセスポイント毎の電波出力を適切に設定する。
・アクセスポイント置局数を最適化する
まず自動CH設定を固定CHに設定変更します。
このご提案ではサイトサーベイの結果を元に外来波とも極力干渉しないようにCHを選定し、AP毎に使用するCHをご提案しました。
次にこの建物は比較的上下階にも電波が抜けやすい事がサイトサーベイで分かりましたのでこの対策を行い、もうひとつフロア毎のAPは場所によっては少し置局数が多い事も分かりましたので一部停波のご提案、そして同階層には電波が比較的遠くまで飛んでいる事も分かりましたので、全体的にAP毎に電波の出力を弱める対策をとりました。
まずは上下階で真上と真下に作業員が分かれてトランシーバで連携を取りながらそれぞれで電波強度の変化を測定します。
測定を行いながらAPの電波出力設定を弱めていきます。
するとある出力の設定で上下階への電波の抜けが干渉波としての影響をあまり考慮する必要が無い値まで下がっていきます。
この設定を基準の出力値としました。当然ながらAPと同層階では十分な電波強度になっています。
こうする事でいくつかのメリットが生まれます。
建物全体に飽和的に電波が溢れていましたが、APが置局されている階層と異なる階層に対しては電波が届き難くなる事で電波の干渉を与え難くかつ受け難くなります。
そして同層階でも隅から隅まで届いていた電波のセルが小さくなる事で従業員が移動した際にローミングがし易くなります。
こうした対策によってこれまで常態的に不安定だった社内無線LANは飛躍的に改善を見る事が出来ました。
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